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職場に向かう途中、ポツンと立っている簡易仮設トイレがある。ここは元々は田んぼであった。しかし、住宅地にするために、土壌が持込れて綺麗に整地された。
おそらく数週間後には住宅の建設が始まるのだろうと思う。田んぼの中で冬眠していたカエルたちは驚いただろう。先祖伝来、住んでいた田んぼが埋め立てられて自分たちの生息地がなくなったのだ。カエルにとっては、冬眠から永眠になってしまったのだ。
整地された後も、なかなか工事が始まらない。業者が忙しくて順番待ちであろうか。でも、ある日、この住宅建設予定地の真ん中に簡易仮設トイレがおかれた。
写真は昼頃に撮ったのだ。なんだか、寂しそうにポツンと立って立っている。とりわけ、夕方、暗くなって、横を通るときは、このトイレ、とてもわびしくて寂寥感が漂うのである。
工事が始まると、業者や大工さんがたくさん利用して、賑やかになるのだろうが、今は静かに、じっと工事開始の日を待っている。
昔は、工事現場も近くに野原がたくさんあった。大工さん達は尿意を覚えると近くの野原で用を足したものだった。排泄物は土壌に返し、それが植物の栄養になるというサイクルが行われていた。
いつの間にやら、その自然の循環が切られるようになってしまった。人間は自然との結びつきを絶ってしまった。逆に言うと、人間は自然から見捨てられた孤児になってしまったのだ。
この簡易トイレを見るたびに、自然と断絶した人間、人工的な世界の中で生きて行けねばならない人間の孤独を感じてしまうのだ。
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